月額でグラフィックデザインを外注する際、最もよくあるトラブルは価格ではなく、「今月は結局何を作るのか」と「1つの案を何回まで修正できるのか」という2点です。この2つが曖昧だと、双方が損をしたと感じます。企業は月額を払ったのに成果物が得られないと感じ、デザイン側は要件が無限に追加されると感じます。以下、実務的な順序で取り決め方を説明します。
まず「1つのデザイン」を定義してから数量を決める
数量条項が不明確になるのは、多くの場合「1つのデザイン」自体が定義されていないからです。同じポスターでも、コピーだけ変更したら新しい1件になるのか。同じキービジュアルから3サイズを展開したら1件か3件か。取り決めではまず計量単位を固定することをお勧めします。一般的な方法は以下の通りです。
- 納品物単位で数える:ポスター1枚、PPT1ページ、SNS用正方形画像1点をそれぞれ1件とする。素材の種類が多く、1件あたりの作業量に差が大きい場合に適しています。
- プロジェクト単位で数える:1つのキービジュアルと3サイズを1プロジェクトとする。同じテーマを複数チャネルで展開する場合に適しています。
- 工数換算で数える:件数を固定せず、毎月使える工数を定め、企業が優先順位を決める。需要の変動が大きく、件数の予測が難しいチームに適しています。
3つの方法は併用できますが、どの種類の依頼がどの計量方法になるかを取り決めに明記する必要があります。例えば「通常のSNS画像は件数単位、キャンペーンのキービジュアルはプロジェクト単位」といった具合です。
数量は数字だけでなく基準も明記する
「毎月10件」という表現だけでは不十分です。以下の点も併せて取り決めることをお勧めします。
- 計量対象:完成画像の数か、ソースファイルを含む納品数か。
- サイズと仕様:同じデザインから複数サイズを書き出す場合、それぞれ1件と数えるのか、「同一デザイン3サイズ以内は1件」と定めるのか。
- 未使用分の繰り越し:その月に使い切れなかった件数を翌月に繰り越せるのか、それともリセットされるのか。この点は双方の認識に大きな差が出るため、必ず明記が必要です。
- 超過分の扱い:超過分は件数単位で追加請求するのか、翌月分から差し引くのか。単価の基準は明記しますが、具体的な金額は双方の状況に応じて協議するものとし、本記事では相場の数字は提示しません。
- スケジュールと締め切り:企業がいつ依頼を出すか、デザイン側がいつ納品するか。月末に依頼が集中して対応できない事態を避けます。
修正回数:「修正」と「作り直し」を区別する
修正回数で折り合わないのは、多くの場合2種類の作業を混同しているからです。1つは既定の方向性内での調整(コピー変更、画像差し替え、余白調整、配色変更など)。もう1つは方向性を覆す作業(スタイル変更、レイアウト構造の変更、キービジュアルのコンセプト変更など)。前者は修正に該当し、後者は作り直しに近く、コストが異なるため同じ修正回数の枠を共有すべきではありません。
実務的な書き方は、修正の定義と範囲を示すことです。
- 1回の修正:企業がフィードバックを一度にまとめて提出し、デザイン側がそれに基づき1回調整する。分割して何度も提出すると、複数回の修正とみなされやすくなります。
- 含まれる範囲:テキスト、画像差し替え、色、余白、部分的な要素の位置調整など、方向性内の調整。
- 含まれない範囲:全体スタイルの変更、レイアウト構造の変更、キービジュアルのコンセプト変更。これらは新規依頼または作り直しとして扱います。
- 回数の上限:一般的には1件につき2〜3回とすることが多いですが、具体的には双方で協議します。超過分の課金方法は明記が必要です。
- フィードバック方法:コメント、スクリーンショットへの注釈、ドキュメントへの箇条書きなど、1つの方法を定め、確認の往復を減らします。
例(仮定のシナリオであり、書き方の参考のみ):「各完成品には2回の修正を含む。企業は初稿受領後、フィードバックを一度にまとめて提出すること。方向性内の調整は回数に含む。スタイルまたはレイアウト構造の変更は新規依頼とみなし、別途計量する。」
特急対応・一時停止・キャンセルも明記する
月額契約では、急な割り込み依頼やキャンセルがよく発生します。事前に取り決めておくと、多くの説明を省けます。
- 特急対応:何を特急とするか、どのくらい前に依頼するか、当月の件数を消費するか、別途課金するか。
- 一時停止:企業都合でその月の依頼を停止する場合、月額費用の扱いと繰り越しの有無。
- キャンセル:着手済みだがキャンセルされた依頼を、当月の数量に含めるか。
- コミュニケーションの頻度:毎週または隔週で進捗を確認し、月末になって数量が合わない事態を避けます。
納品と検収:数量条項は納品物と整合させる
数量は「何件作るか」、検収は「何を納品するか」を扱います。両者を整合させないと、「件数は足りているが、使えるファイルがもらえない」という事態が起こります。取り決めでは以下を区別することをお勧めします。
- 完成ファイル:そのまま使用できる書き出し画像(JPG、PNG、PDFなど)。
- 編集可能ファイル:レイヤー構造を持つソースファイル(PSD、AI、PPTソースなど)。月額費用に含まれるか、どの程度まで提供するかを明記します。
- 利用許諾範囲:素材、フォント、画像の使用範囲とライセンス。第三者の素材が関わる場合は特に明確にします。
- 印刷物:印刷が関わる場合、塗り足し、カラーモード、フォントのアウトライン化などの要件は、印刷会社と確認した上で最終稿を決定します。これはデザイン側だけでは判断できない仕様です。
企業が後から自ら修正する可能性がある場合、ソースファイルの納品方法は契約初期に話し合っておく価値があります。納品ファイルに関する説明はグラフィックデザインの知識も参考にしてください。
書き換え可能な取り決めの枠組み
上記の内容を文章化すると、おおよそ以下の項目が含まれます。計量単位と毎月の件数、未使用分の繰り越しの有無、修正回数と修正の定義、作り直しと超過分の課金基準、特急対応と一時停止のルール、納品物リストと検収方法、依頼提出とフィードバックのタイミング。長く書く必要はありませんが、各項目は「該当するかどうか」を判断できる具体性が必要です。
企業がブランド素材、SNS画像、プレゼン資料など複数の種類の依頼を同時に抱える場合、それぞれを異なる計量基準に分類し、作業量が大きく異なる素材を同じ件数基準で扱わないようにしましょう。月単位でデザインリソースを手配する場合は、グラフィックデザインサービスの実際の範囲を踏まえて毎月の件数と修正回数を設定し、書面の取り決めに落とし込みます。





